日本沈没の思い出
ある日の午後、背広姿の父が珍しく、「映画とボーリングどっちがいい?」って。私、元気よく、えいがー!と挙手&絶叫。 近所のショッピングモール内にある小さな映画館へ家族で行きました。 妹は赤ちゃんだったので家で寝ていたのか一緒にいたのかは忘れた。 しかし場内が暗くなりさんざん予告編が流されただけで、子供のわたしにはもう充分だった。幼かった私は映画が観たいというより、暗闇で映写されるというその状況に身を置きたかっただけだった。 それより6時からはじまる「ダメおやじ」が見たくてしょうがなくなる。暗闇のいすの上でもんどりうち「ねえ、帰ろ帰ろ、ダメおやじあるから帰ろ」。さぞかし迷惑な子供だったであろう。 しかし、気がつくと「なにじんやろ?」と思うほど濃い顔の男の人(藤岡弘、)の尋常でないがんばりようにどんどん引き込まれ、黒焦げの死体にショックを受け、いつしか「ダメおやじ」への思いは遠のき、最後まで観てしまう。 あーあ、(主役の男女は)おんなじ電車に乗ってるのに…会えるんかな…電車に乗って逃げても地面はちんぼつでなくなるのにどうなるんやろう…あの黒こげのにんげんはほんものかな… とラストで思ったことをいまだに覚えている。 そしてその日の明け方。ふとカラスの鳴き声で目覚める。カア、カア…。映画の中で見た映像、異変を予知した鳥の黒い群れが逃げていく、その不気味なシルエットとたくさんの泣き声…が頭に浮かぶ。こわいー!こわいこわい…未明のふとんのなかで泣いてしまう。 母が泣き声に気がついてどうしたん、と寝床にきてくれた。「にほんが…ちんぼつする…」しゃくりあげ。 母は大丈夫大丈夫、あれは鳥さんがおうちに帰っていく音やで、と。 以上、私が幼稚園か小学校一年生頃に観た映画「日本沈没(1973年)」の思い出。ほんまにこわかったんです。